物忘れと認知症
最近、人や物の名前がすぐに出てこなかったり、昨日の晩御飯のおかずの内容が思い出せないなど、「物忘れ」は年齢を重ねるとともに徐々に自覚することが多くなってきます。
加齢に伴う物忘れ
加齢に伴う物忘れは認知症とは異なり誰にでも起こりうる生理的な変化の1つです。脳の奥底には記憶はしっかりあるのに、思い出す(記憶を呼び出す)能力が加齢により衰えることで起こります。
認知症による記憶障害
一方、認知症による記憶障害は、新しい出来事を覚えることができず、出来事そのものの情報が抜け落ちている(記憶できていない)状態です。
例えば
昨日の晩御飯の内容を忘れているのが、いわゆる「物忘れ」なら、認知症による記憶障害は晩御飯を食べたという出来事自体が抜け落ちており、そのために日常生活に支障がでてくる状態です。進行すると、過去の記憶までも抜け落ち始めることがあります。
認知症の原因
認知症の種類は主に3タイプあり
認知症のおよそ、
- 50-60%を占めるアルツハイマー型認知症
- 20-30%を占めるレヴィー小体型認知症
- 10-20%を占める脳血管性認知症
があります。
アルツハイマー型認知症
脳にβアミロイドというタンパクが蓄積することで脳細胞に障害を及ぼすことが知られています。
レヴィー小体型認知症
レヴィー小体というタンパクが蓄積することで脳細胞に障害を及ぼします。
脳血管性認知症
過去に起こした脳卒中が原因で、脳卒中の部位に対応して起こります。
認知症の進行を抑制する内服薬や貼付薬があります。
主に、脳の変性によって減少してしまったアセチルコリンという神経伝達物質を補うことで、認知症の進行の抑制を目的として使用されます。(根本的に認知症を治す薬ではありません。)
MCIとは
認知症の前段階の状態があり、MCI(軽度認知障害)と言われています。
このMCIの状態から、認知症に進行する場合もあれば、適切な予防によって進行を食い止めることも可能です。
MCIの特徴
- 本人または家族から記憶障害の訴えがある。
- 日常生活動作に大きな問題はない。
- 認知症ではない。
MCIを早期に発見し、予防、治療することで、認知症の発症を防いだり、発症を遅らせたりすることが可能です。
- 認知症を発症するかどうかは発症のおよそ20年ほど前にさかのぼり、その時点からすでに脳に変化が始まっていると考えられています。
- 生活習慣病、つまり、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの発症を予防、または治療することで、認知症の発症を予防できると考えられています。
- 比較的若年の時分の生活スタイルが、認知症の発症に関連していることが分かってきています。
- 適切な睡眠をとり、ストレスを溜めないことも認知症予防には重要です。
- また人とコミュニケーションをとり、脳に適度な刺激を与えることも重要です。
- 適度な運動、食習慣の見直しなど、ご自身の健康の維持に努めることが重要なのです。
治る認知症もある
比較的急激に物忘れ症状が現れたり、今までできたことが急にできなくなったり、およそ数日から1-2週間の単位で変化が起こっている場合は、認知症によるものではなく、脳卒中や電解質異常、感染症、また、内服薬の副作用の影響などの可能性があります。
早期の対応にて、治療可能な場合がありますので、神経内科にご相談ください。
最後に
認知症の症状のサインは、記憶力の低下だけでなく、最近、意欲が低下してうつ病のような状態になっているとか、逆にイライラしやすくなり、すぐに怒るようになったなど、感情の起伏が激しくなるなどの症状で見つかる場合もあります。
また逆に、記憶障害が、一過性で翌日には元通りになっているという場合には、脳卒中の予兆やまたてんかん発作の前兆である可能性もあります。
一度神経内科でご相談されることをお勧めします。